銀行員という職業に対して、良いイメージを抱えている方はどのくらいいるでしょうか? 社会的地位も高く、給料は多く、かつ安定していると思っている方も少なくないと感じます。
しかし、実際には銀行員と言う職業はそんなに優しいものではありません。金融業という特別なスキルが求められる職業なので、銀行員は常に勉強を続けなければならず、その成果を資格の合格というカタチで示し続けていかなければなりません。
銀行員の方からよく聞く話の1つに、「銀行員は定年退職するまで資格勉強と戦わなければならない」という言葉があります。大卒で新入行員として銀行に入り、1年目で多ければ8個以上の資格に挑戦することもあり、合格した資格の数と難易度によって人事評価の一部は決まるそうです。
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銀行が資格を重視する理由
それでは、なぜ銀行員はそれほどたくさんの資格を取らなければならないのでしょうか?
資格を取得するために勉強をするのは本人ですが、銀行側も行員に資格を取得させるために多量のお金を投じています。
銀行によってもまちまちですが、資格の受験代金やテキスト代、場合によっては外部講師などを招待する場合もあり、それらのお金は銀行側が負担するケースが殆どです。
もちろん資格試験に合格した行員には資格手当を支払ったりと、決してタダで行員に勉強させているわけではありません。
「マイナス金利とかで経営が苦しいのに、そんなことをしている余裕はあるの?」と思う方がいらっしゃるのも当然のことです。
銀行が所属する行員に資格取得を求める理由は、主に以下の3点があります。
- 金融のプロとしてあらゆる知識に精通する必要があるため
- 業務内容の変更が頻繁にあるから
- 新たなビジネスモデルに挑戦しているから
これからそれぞれ順を追って説明していきます。
金融のプロとして知識に精通するため
銀行員は、言わばお金に関するプロフェッショナルな存在です。そして、お金を正しく扱うには「知識」を欠かすことができません。
お金に関する「知識」は数えきれないほどあります。例えば、銀行として営業するだけでも「銀行法」という法律の専門的な知識が必要ですし、有価証券を販売しようと思えば証券外務員という資格が必要となり、保険の営業を行うためには生命保険募集人という資格が必要になります。
ファイナンシャルプランナーや日商簿記のように、資格を取得しなくても業務はできる場合はさほど問題はありませんが、銀行の仕事の中には資格を取得しないとできない仕事もあります。
保険や有価証券の扱いなどはお金が深く絡むので、正しい知識と倫理観を兼ねそろえた人間でなければなりません。
資格を取得しなければ営業ができない仕事があるというのが、勉強する資格の数が増える一因でもあります。
業務内容の変更が頻繁にあるため
銀行員は、通常3年~5年で転勤する場合が多く、その際に業務内容が全く違うものに変化するケースが多くあります。
「1週間前まで融資の仕事をしていたのに、今日から預金の仕事をしなければならなくなった……」なんていうことがザラに起きます。
長年同じ仕事を担当していると不正が起こりやすくなるため、お金を取り扱ない本店事務など以外、基本的にすべての行員が転勤を経験します。
しかし、「じゃあ今きみには融資の仕事をしてもらってるけど、来週からは預金の仕事をしてもらうから!」と言われてすぐに出来るはずもありません。
なので行員はあらかじめ銀行のあらゆる業務内容を網羅しておく必要があるのです。いつ自身の業務内容が変更になっても対処できるように、膨大な量がある銀行の業務内容を把握しておく必要があります。
取得を求められる資格の中には銀行業務検定と呼ばれるものもあり、この試験は「法務」「財務」「税務」を代表として、全23 系統・36種目で構成されています。
新たなビジネスモデルに挑戦しているため
銀行の三大業務と言えば「預金」「融資」「為替」というのは有名ですが、最近はアセットマネジメント(資産運用)なども重要視されてきています。「Asset Management」、直訳すると「資産管理」という日本語となり、個人の顧客の持つ資産を運用するサービスが増えています。
要するに個人の顧客を相手に投資信託の販売をしたり税金関連の相談に乗ったりすることなのですが、このアセットマネジメントの台頭でファイナンシャルプランナーの評価が上がりました。
それによって行員に取得を推奨する銀行も増え続けており、現在では銀行員の代表的な資格の1つとして扱われるようになっています。
他にもフィンテック(Fin Tech:Finance Technology)と呼ばれる金融業のテクノロジー化も進んでおり、今後はIT関連の資格も行員に求められるケースも出てくるでしょう。
『取得しておいて当然』な資格も中にはある
銀行員の辛いところが、必ずしも「資格を取得したから評価が上がる訳ではない」ということです。
取得する資格の中にも簡単なものと難しいものの差はもちろんあり、前者の場合だと殆ど評価されることはありません。
例えば証券外務員や生命保険募集人が当てはまり、比較的難易度の低いこれらは取得しても人事評価にさほどの影響は与えません。
むしろ「受かって当然。取得できなかったら評価が下がる」という厄介な代物で、点数を下げられたくない行員は必死になって勉強します。
受かっても加点はされないけど、落ちたら大幅に減点される。このあたりが銀行の「減点主義」と呼ばれる1つの要因となっています。
受かって当然な資格
- 証券外務員一種
- 生命保険募集人
- 損害保険募集人
- 内部管理責任者
- 銀行業務検定3級
- 日商簿記検定
- ファイナンシャルプランニング技能士
このあたりは、辛いですが「受かって当然、落ちたら人間じゃない」と言われることもあります。
この中では証券外務員一種が最も難しく、反対に最も簡単なのが損害保険募集人資格です。あくまで個人的なランキングですが、難しい順に証券外務員一種→銀行業務検定3級→内部管理責任者→生命保険募集人→損害保険募集人となります。
日商簿記とFPは何級かにもよりますが、2級以上でなければ評価してもらえないでしょう。
特に外務員資格は入行前に取得させる銀行が多いので、持っていないと「外務員資格持ってないのに、なんで銀行入っているの?」という視線で見られかねません。
銀行員として仕事をするなら資格は必須です
以上の通り、もし銀行員として働きたいのであれば、資格の勉強は決して避けて通ることが出来ません。
ゆえに、勉強との付き合い方が非常に大事になってきます。働きながら時間を見つけて資格の勉強をする決意を持ち、それを継続していかなければなりません。
もちろん資格の勉強で忙しい代わりに他の職業と比べて給料は高いので、勉強が苦痛じゃない or 上昇志向が高い方には向いている職業かもしれません。
いずれにせよ、職業はしっかりと考えて選ぶ必要がありますね。特に銀行の場合は勉強に終わりがないので、「2、30年先まで勉強を続けられるのか」ということを胸に聞いておくことが重要になるでしょう。